2012年3月13日火曜日

TPP議論雑感

ともすれば、各論の不都合を持ち出して反対意見に終始してしまうTPP議論に警鐘をならしたい。変化を恐れ、扉を閉ざしてしまうのは、まるで日本を安楽死させることを選んでいるということにつながることはないだろうか?

TPPについて、賛成反対を行う以前に重要なイシューがある。日本全体が、将来どのようにありたいのか、そして、どのような国際的貢献をしてくのか。そのビジョンのもとに、徹底的に戦略を議論し、その戦略を実行するための位置づけとしてTPPを考えるべきである。変化を恐れていても、もう、すでに、日本は人口構造という根本的な構造が大転換点を迎えている。この大転換点の先にどのような日本を作りたいのかを考えることが必要だと思う。今の日本を閉塞感のあるものと捉えるのはもうよそう。この転換点に生まれ、あたらしい日本の秩序、Japanese New Order の形成の時代に自分が生まれたことを心から感謝したいと思う。

ビジョンをもとう。ビジョンは政府に責任を求めるものでは決してない。将来の子孫にどのような世界で暮らしてほしいのかを考える、人間として当たり前の作業である。この大切な作業を、僕たちは日々の中で忘れてしまったり、または他力に任せてはいないだろうか?僕たち日本人の一人一人の心の中に、30年後の日本のビジョンをもとう。そして、そこへ向かうには、明日、目が覚めたときに、自分が何をすればいいのかをイメージしよう。TPPに対して、賛成・反対を論じる前に、僕たち一人一人の心の中に、30年後の日本をどのようなものにしたいのか、そのビジョンがあるかどうかを問い直すことの必要性を感じる。

グローバリゼーションは平らな世界を作るのではなく、spike状に分布する世界を作るといわれる。お金が自由に行き来し、情報が自由に行き来し、物も自由に動くようになる。では、我々はどこに住みたいか?おそらく人々は多様性やリーダーシップや寛容性や美しさや気候などを軸に、居心地のいい場所の居心地のいいコミュニティーへと集中していく。それは、自然に人口密集のメガ地域を生み出し、都市が世界的に限られた場所に集約されていく姿になる。

これは、リチャードフロリダのクリエイティブ都市論の内容だ。しかし、このような世界への移行過程では、お金や情報を囲い込む既得権が大きく抵抗する。これら抵抗者は、もちろん、今現在お金や情報を多く独占している存在であり、すなわちこれは、権力者だ。

お金や情報を自由に動かし、ものが自由に動き出せば、それらの呪縛から人は解き放たれ、どの場所で誰と時間を過ごすのかを重点的に考えるようになるだろう。そうなったとき、僕は日本は、人々が目指す素晴らしいエリアになりえると考える。

TPPといえばアメリカの言いなりという感がある。その大きなテーマとして格差社会が存在する。格差社会は確かに問題だ。その格差の流動性が固定されてしまうと悲劇だ。特に同一地域での格差は特に問題である。貧しい国でも格差の少ない社会では安定性が高いともいわれる。しかし、少なくとも同一地域内での格差は避ける必要があります。

グローバルな非格差社会を作るには、アメリカの自由主義ルールではない新秩序の形成が必要である。決してアメリカのいいなりではない。そのチャレンジとして、日本が何ができるのかを考えるべきだと思う。アメリカとは違う社会を作り出すためのアクションとして、米国対日本という構図ではなく、環太平洋エリアという多国で交渉する舞台でどのようにふるまえるのかが鍵だろう。また、アジア圏の合意形成型の民族の特性は、アメリカの自由主義的格差社会の形成に対してバランスを与える文化でもあると思う。

安全保障を完全にゆだねているアメリカには言いなりにならざるを得ないという意見もある。しかし、日本のすぐ向かいには中国の存在があるために、安全保障上、日本という場所を無視することはできない。日本は対中国戦略にとって極めて重要な要衝である。この戦略的地理的位置の有利性も駆使しつつ、TPPも戦略的に利用し、国際的な新秩序の旗振り役として日本がリーダーシップを発揮することはできないか。冷戦後、世界戦略として最重要なのは、中国とアメリカの構図である。独力で中国に対抗する方法はもはや得策ではない。日本は中国にとっての第一列島線である。第二列島線を形成するアジア諸国と一体となって、中国の南シナ海覇権、インド洋覇権、北極覇権からアイルランドへ抜ける覇権形成を目指すグローバルな中国戦略に対抗しなければいけない。さもなければ、中国の戦略に取り込まれる国家となるだろう。

TPPを踏み台として、環太平洋領域において、中国と対抗するために、日本が加わることで始めて可能になる今までの米国戦略一辺倒ではない新秩序の形成を目指すのだ。アメリカを巻き込んだ環太平洋での秩序を基本に、インド圏と連携をとりながら中国とのバランスをとることのできる唯一の国家となる方法もあり得ると考える。

繰り返しになるが、大問題なのは、大前提となる国家像があいまいになってしまっていることだ。日本にはまだカネ(経済力)がある。それが失われる前に、日本のよさが最大限発揮される未来の国家像を打ち出す必要がある。ただ、時間はあまりない。

経済成長によって自ら夢を描く能力を奪い去られたあと、その成長が失われ高齢社会を迎える日本は、飛ぶ羽が一部抜け落ちた鳥が、空に放たれたごとくなのかもしれない。しかし、落ちるまでにはまだ距離があると思う。もう一度飛ぶために、羽ばたくことを全力で行ってもいいと思うのです。ビジョンとそれに向かって飛ぶ意志でもう一度羽をとりもどしたい。

変化が必要な時には、あらゆる変化をチャンスとして見つめなおしていくことが必要だ。TPPを千載一遇のチャンスかもしれないと考えることが必要だ。まずは、そう考えることが必要だ。少なくとも、自らの環境変化を拒む根拠として、TPPをリスク視する視座の持ち方に居座り続ける態度は改めるべきである。

ビジョナリーな国家となり、そのビジョン実現のための打ち手としてTPPを最大限活用してほしいと思う。

参考文献

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